自分でも、生まれてからどれだけの年月が経ったのか知らない。
「ねえ、ジャファル。綺麗だね」
俺を追う奴らから逃げて逃げて…ここはどこの海だろう。
今の俺の心とは裏腹に、穏やかな音を立てて俺たちの足元へ波は
寄せては返し、寄せては返し。
「…少し、座ろうよ」
「ああ」
その海と同じ、清浄な光を放っているお前の目が、俺を見上げて笑う。
握っていた小さな小さな手をそっと離して座って、また、
その手がどこへも行かないように砂の上で握り直して、
「…辛くないか」
「ううん。だってジャファルと一緒だもん!」
…どうして、こんな時にまで笑えるんだろう。
俺と一緒だから、お前も追われている。お前は俺を責めて殴って…
いつだって俺なんか放り出してどこかへ逃げていい。なのに、
「綺麗だね。海って、いつ来てもいいな。ねえ、ジャファル」
お前はそっと俺の手を離してやっぱり笑う。
「少し…遊んできてもいい、かな」



SHINE




「ああ」
どうしてそんなことまで俺に許可を求めるのだと、理不尽な怒りすら
お前の言葉に抱きながら、俺はただ頷いた。
「えへへ。待っててね。どこへも行っちゃやだよ?」
「…行かない」
そしてお前は、お前を置いてどこへも行けない…お前がいなければ
どこへも行けない俺へ、太陽みたいに笑いかけて、ブーツを脱ぐ。
途端に俺の目に飛び込んでくる、真っ白な…素足。



…ああ、綺麗だな。



そんな風に思った自分にも驚いて、けれどそれ以上に、傾く夕日の中で
波と戯れているお前が綺麗で…一枚の絵みたいで、
(…入っていっちゃ、いけない)
俺がその中へ入ってしまえば、この綺麗な至高の絵を汚してしまうんじゃないかと
思えるほどで。
「ジャファル、気持ちいいよ、おいでよ!」
「あ、ああ…だが」
「ほらほら!」
なのに何の屈託も無く、お前は俺をその風景の中へ導いていく。
「…冷たい」
海の中へ入った俺に、
「あはは、ジャファル、隙あり、だよ!」
降り注がれるのは青い水と、お前の笑顔。
それは俺たちが追われているということを、みじんも感じさせない
無邪気そのものの笑顔で、
「…わ、ジャファル!?」
「…守ってやる」



抱き寄せて、小さな身体を強く抱き締める。
抱き締めるほどに、俺の中の穢れた部分がどんどん綺麗になっていくような、
今、俺たちの足元へも絶え間なく打ち寄せる波に洗われて、
どんどんどこか遠くへ運び去られていくような、そんな気がして。



「…ねえ、ジャファル」
「ん?」
やがて、おずおずと小さな両手が俺の背中へ回った。
「…この近くに、いようよ。わたし、ここ、好き」
「…そうだな」
海原の向こうで、夕日はゆっくりと姿を消していく。
夕暮れと夜の境目、星がそっと辺りを見守る中で、
見下ろしたお前の瞳は、どんな光よりまっすぐに俺だけを見ている。
「そうしようか」
「うん!」
うれしそうに頷いて笑うお前の瞳の中に、俺は夢を見る。



この近くの林の中にでも、小さな家を建てて、
その小さな家の中で二人、食べていく分だけの糧を得て、それから…。



逃げることに疲れた、っていうわけじゃない。
お前が好きなものの近くに俺もいたい。
「守ってやる」
そう、そして、お前とお前の好きなものを守りたい。
「うん…うん」
口下手だからそれ以上上手くは言えなくて、ただそれだけを
繰り返す俺に、お前も頷いて強く抱きついて来る。
「目…閉じていてくれないか」
「え? うん」
まだ少女っけが抜けないその顎へ、そっと指先を添えて上を向かせたとき、
お前の瞳に映っていたのは、満点に光る星。



「ジャファル! 今日も海は綺麗だったよ!」
「ああ」
それからも、毎日お前はそう言って、小さな小屋の側で薪を割る
俺へ告げる。
思わず微笑んでお前を見つめる俺の目に映るのは、
海を背後にしてお前が笑う、そんな輝く一枚の風景。



FIN〜


管理人コメント

なんとなんと!!
幻桜城のまいまいげっと様から、またも素敵なSSを戴いてしまいました〜!!
それも…夏に海で戯れるジャファルとニノのお話です!!
眩しい太陽より尚輝いて見える少女…ニノを見守るジャファル。
穢れた自分が触れてはならない、清らかな少女。…ジャファルの葛藤が切なくて胸にじ〜〜んと沁み入ります。
物語の光景が目に浮かぶような作品ですね。
たまらない…これはジャファニノファンにはたまらないですよ!!
 
まいまいげっと様。素晴らしい作品を有難う御座いました。
折角の夏向き作品だというのに、掲載が遅れてしまいすみません…
でも、ジャファルとニノの真夏の情景は私の心に焼き付いております。
 
まいまいげっと様の楽しいお話がたくさんの幻桜城はこちらからどうぞ↓


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