「終わった……ね」
「ああ」


気持ちのいい風が吹きぬける。夕暮れの赤い空。


「これで……もう悲しむ人はいなくなるよね」
「ああ」


やっと全ての闇の根源を滅ぼし、
暗い場所から出てきた二人には、
夕暮れのその赤ですら、
陽の光のように眩しく見えた。


「私も……一人になることなんて……もうないよね?」
「……ああ」


風は、
風は優しく二人の間を駆け抜ける。

すべてを、
すべてを拭い去るかのように、
風は吹き乱れる。




暗くなりつつあるそこに、
二つの人影が――

暗い過去から、
明るい未来へ羽ばこうとする若い二人の、
晴れ晴れとした背中。




そう、二人には未来が、希望溢れる未来が待っているはずだから――・・・




希望の未来


木の上で横になり、空を泳ぐ雲を見つめていた。
時折吹く風は、周りの木々をざわめかし、そして見つめる雲をも吹き流す。
チラチラと視界に入っては消え、また入っては消える鳥の影。
不意に耳に入ってくる小鳥たちの鳴き声は、合唱のようで。
その全てが、世界の平和の象徴であって……。

「ジャファルー!! どこー?」

けれど、ジャファルにとって、
何より平和を感じさせるものは、
たった一人の大切な少女の笑顔だった。

「ジャファルー!?」
「ここだ」

突然、求めていた声が頭上から降ってきて少女は驚き、見上げた。
そして満面の笑みを浮かべる。

この辺りでは珍しい緑の髪の少女は、ジャファルの一番大切な人で。
そして、ジャファルが得た初めての家族だった。

「ねぇ、私も上っていい?」
「駄目だ」
「なんでーー!!」
「駄目と言ったら駄目だ」

頬を膨らませて頭上の男を見る少女。
そんな、
そんな拗ねた少女の顔すらジャファルには愛しくてたまらない。
フッと微笑んで、ジャファルは木から身軽に下りた。

生まれて初めて知った、愛しいという感情。
生まれて初めて知った、楽しいという感情。

悲しむこと、笑うこと、怒ること。
そんな、教わらなくても知っている人間らしい感情を、
知らなかった自分に。
すべてを教えてくれた少女の存在は、
ジャファルの中で日増しに大きくなっていって、
そして今も大きくなり続けている。




初めて思った




                  ――愛しいと




初めて感じた




                  ――一緒に生きたいと




初めて恐怖に震えた




                  ――失いたくないと






木から降り立つと、ジャファルは少女のもとへ歩み寄った。

「どうした? ニノ」
「ずるい……」
「何が?」
「木に上ってた!」
「……」

口調は拗ねているけれど、ニノの表情はほころんでいる。
そして傍に来たジャファルの腕に自分のそれを絡めて、
そして改めてジャファルの顔を見上げる。

「私も上りたい!!」
「……」

駄目元でもう一度訴えてみる。

「駄目だ」

でもやっぱり答えは同じで。
ニノはまたピンク色の頬を膨らます。
けれど、駄目だという言葉が返ってくる事を確信していたニノは、
すぐにまた微笑むと、ジャファルの腕に絡める自分の腕にギュッと力を込めた。

二人は、腕を絡めたまま。
静かな二人の家に帰る。
ひっそりと、けれど穏やかな時間の中で、
先に見える未来は、きっと希望に満ち溢れていると信じながら、
二人は、家へ帰る。



「上りたかった……」

家の屋根が見えてきた頃、ニノが呟いた。
ジャファルは溜息をつくと、
傍らの少女を見下ろした。
そして――・・・

「ニノ、お前の体は、もうお前一人の体じゃないんだぞ」








二人には、明るい未来が待っている。
きっと、必ず……
幸せな時代(とき)がやってくる……




そう、それが例え つかの間の平穏あっても――・・・






END




管理人コメント

その昔「ビオスの空」の海乃アナゴ様へリクエストしたお話です。この度、嬉しい事に掲載許可を頂きまして、同盟に飾らせて頂く事になりました。
過去を振りきり、未来へ歩むジャファルとニノの健気な様子が、たまらなく心に響きます。
幸せなんだけど、ほんのり切ない…そんなジャファニノの良さが染みてくる素晴らしいお話です。
海乃様。掲載許可をありがとうございました。

海乃様の素敵なお話をもっと読んでみたい。と思われた方はこちらからどうぞ。



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