「元気なお子さんですよ、はい!」
邪魔だから、とその部屋から追い出されてはや12時間。
いらいらと扉の前を行ったり来たりしていたジャファルは、いきなり開いた
扉から現れた産婆が渡した塊に驚いた。
「…双子か」
あんなちーこい体でよくもまあ2人も、などと
一瞬思いかけた彼だが、
「お母さんは頑張ったんですからね。ほらほら、お父さん、中へ
入って褒めてあげてくださいな!」
「…ああ」
めったやたら元気な産婆さんに背中を押され、その双子を落っことさないように
焦りながら、彼はその部屋へおずおずと入っていった。
「…ジャファル?」
汗ばんだ、疲れをにじませた顔で、彼の妻がベッドから彼を認めて微笑む。
「私、頑張ったよ」
「ああ、よくやった」


ジャファルの子育て奮戦記




…それから八ヶ月。
「…お前は、俺に何か恨みでもあるのか」
妻の産んだ双子の片割れのおむつを換えながら、ジャファルは
赤ん坊へ話し掛けた。
もう一人のほうは、きゃらきゃらと愛らしい声を上げて笑いながら、
妻の「ベロベロバー」に、小さな手足を振り上げている。
しかし。
「お前は生まれたときからそうだったな」
まだまだ赤ん坊だというのに自分とそっくりな、フテた目つきで父親である
自分を見ているわが子へ、顔を引きつらせてジャファルは言う。
もう一方は、妻、ニノにそっくりな愛らしい瞳をしているというのに。
…自分の考えすぎなのかも知れない。何度もそう自分に言い聞かせ、
ジャファルは、レイと名づけた我が子のおむつを黙々と換え終えた。
「…これですっきりしたろう。次のお前の要望はなんだ。ミルクか?」
「んもう、ジャファル!」
もう一人の我が子、ルゥを寝かしつけて、ニノは呆れたように笑う。
「赤ちゃんにガン飛ばししないでよ。
おお、よしよし! いい子だから泣かないの。ね?」
そしてニノが自分へ同情めいた言葉を吐くと、まるでそれを分かっている
かのように、レイは泣き喚くのだ。
…自分の考えすぎなのかもしれない。まだまだこいつは
赤ん坊なのだ、
と、何度ジャファルは自分に言い聞かせただろう。
ルゥは扱いやすい子なのに。
「あららら!」
思わず憮然と腕組みをして、ため息をつく彼は、ニノの慌てた叫びに
我に帰った。
「パパ、お願い。またウンチしたみたい」
…考えてみれば、どうしていつもウンチおむつは俺が換えるのだろう。

あまりにもニノが辛そうなので、一度「俺が換える」と言ってしまってから、
ずーっとこんな状態が続いている。
「私、ミルク作ってくるから」
「……分かった」
しかし、今のレイは赤子だ。間違いなく赤子で、しかも
自分の子なのだ
とまたしても自分に言い聞かせ、ジャファルは
再び黙々とレイのおむつを換え始めた。
「お前…さっき『した』ばかりなのに、なんでまたするんだ」
「……」
父の悲痛な、心からの叫びといった風情の言葉に、しかしレイはやはり
フテ目で睨み返すのみである。
一度など、背中でおぶっていたら、背中で『された』ことがあった。
さしもの彼も、背中を走る生暖かい感覚にさすがに慌てて、
背中でぎゃあぎゃあ泣き喚くレイに構わず、全速力で家へ飛んで帰ったものだ。
げっそりとありし日の光景を思い出し、ジャファルはレイのおむつを外した。
「…たっぷりだな」
おまけに馥郁たる香りも漂っている。どこからどうしてこんなにも出せるのか。
深々とため息をつきながら、お尻拭きにしている布切れ
取ろうとした瞬間。
「うっ!!」
…なんとも小気味よい音が、レイの小さなお尻でしたかと思うと、我が子は
なんと、尾篭なる物体を自分の膝めがけて飛ばしたのである。
「と、飛ばした…飛ばしやがったな、お前!」
思わず現役時代に相手をビビらせていた視線
我が子を見つめると、なんとビビりもせずに、レイはフテた目で父を
睨み返してきた。
「あらあら! そんなことくらいで怒らないで。ああ、泣かない泣かない!」
そこへニノの声が響くと、またタイミングを計ったようにレイは泣き出す。
「んもう、悪いお父ちゃまですねえ。よしよし」
「…少し寝る。辛ければ起こせ」
もう一人の子、ルゥは「我関せず」といった風情ですやすやと眠っている。
ほんっとーに割り切れない思いを抱いて、ジャファルは
ひとときの幸福を求めるために、隣室で眠りに着いたのだった。



FIN〜
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…夜のしじまを破って、その声は響き渡る。
隣のベッドでは、妻、ニノが疲れきった様子で眠っている。
だもので、少しだけため息をついて彼は起き上がり、隣の部屋へ行った。
…双子の片割れが、顔の半分を口にしてぎゃあぎゃあと泣き喚いているのだ。
「…お前」
これもまた、目のふちをげっそりと黒くふちどって、
彼、ジャファルはあまりの寝不足のせいでかすれた声を搾り出す。
「ミルクもやった、おむつも換えた。他に何が望みだ」
すると、泣き喚いていた双子の片割れ、レイはぴたりと泣き止み、相変わらず
自分そっくりなフテ目で、こちらを睨み返してくるのだ。
「…やれやれ」
繰り返すが、夜である。もう一方の赤子、ルゥは、すやすやと天使のような
顔で、「我関せず」といったように眠っているというのに。
「…飛ばすなよ。おむつ、換えてやるから」
ついでにミルクも、と、湯を沸かしに小さな厨房へ行って、帰ってきた
ジャファルの顔から、次の瞬間血の気が引いた。


ジャファルの子育て奮戦記  そのA




「お、前っ!!」
一瞬、そのまま落ちれば俺は楽になるかもなどと
考えてしまったジャファルだが、辛うじて、レイが脱柵
しようとして、ベビーベッドから転げ落ちようとしているのを抱きとめた。
「お前っ! 下手すっと、命ねえぞ!?」
しかし、父の叱責にもフテた目で答え、レイは小気味良い音を小さなお尻から
発する。
「…またか」
同時に、馥郁たる香りが辺りへ漂う。最初の頃こそ、げっそりとため息を
ついていた父、ジャファルだが、
「紙おむつに替えたから、ちょっとは楽になったな」
落ち着いてレイを再びベッドの中へ戻し、戸棚の中から新しい紙おむつと
お尻拭きを出した。
てきぱきと、すっかり慣れた様子で、
「あ、湯が沸いてる頃だ」
たっぷりと尾篭なるものを出したレイの尻を拭き終え、紙おむつのテープを止める。
「お前、今度脱柵しようとたら」
おぼつかない足取りで、ベビーベッドの柵につかまり立ちをしている我が子へ、
厨房へ歩いていきかけながら、ジャファルはガンを飛ばした。
「そんときには俺が殺してやる。いいな」
「………」

ニノが寝ているので、言いたい放題である。またレイのほうも、フテた目のまま
彼を睨み返してくるのだ。
彼らが火花(←大げさ)を飛ばしあっている、そんな
一触即発(また大げさ)な空気の中でも、ルゥは
すやすやと眠っているのである。
…こいつもこいつで、マイペースだな。
最近、やっとこそう分かってきた。しかしとりあえず、ジャファルはミルクを
取りに厨房へ戻り、そして急いでその部屋へ帰ってきたのである。
「…よし、おとなしくしていたな」
そしてレイを抱き上げ、慣れた手つきでその膝へ乗せて、ミルクの人工乳首を
その口へ突っ込む。
ごきゅごきゅと、知らない人間が見たらまた爽快な音を立て、たちまち
ミルクビンを空にしていくレイを見て、そのうっとりしたような(フテ目
なりに)顔を見て、ジャファルは少しだけ反省した。
…やっぱり自分の考えすぎだ。レイはこんなにも可愛い。
それに、まだ1歳にもなっていないのだ。彼なりに少しだけ反省して、
ジャファルはレイをベビーベッドへ戻し、おんぶ紐を取り出した。
「…少しだけだが、夜の散歩に付き合ってやる」
すやすやと眠っているルゥの横で、その言葉を聞いたレイが嬉しそうに
口元をほころばせている。
…それなりに可愛いじゃねえか。
これも少しだけ口元をほころばせてそう考え、ジャファルは手早く
レイをおんぶして、慣れた手つきでおんぶ紐でくくりつけた。
その途端、



「けけけけけけけーっ!!!」



初めて聞いたときは腰を抜かしそうになったが、
「…そうか、そんなにも嬉しいか」
聞かされるほうも、もう慣れっこになっている。これがレイの、
一番嬉しいときの笑い声なのだ。
「じゃ、行くぞ」
隣室で眠っているニノと、もう一人の我が子、ルゥを起こさないように、
ジャファルはそっと玄関の扉を開け、外へ出て行く…。



ちょうどその頃。
「兄貴、あそこにヤツがいるっての、間違いねえんっすか?」
「確かだ」
覆面で、目から下を覆った胡乱なやからが、その小さな家へ近づいていた。
「ヤツだって分かったら、即襲い掛かる。反撃の隙を与えちゃなんねえぞ」
「了解」
などと言い交わして、覆面男2人は、じりじりとその小屋へしのんでいく。
そこへ、いきなりバタンと扉が開き、中から人影が現れた。
近くの茂みから襲いかかろうとしたかの2人は、その姿を見て、
「どうやらガセだったようだな」
「あ、やっぱり?」

などと言いつつ、毒気を抜かれたような顔をしてその場を去っていく。
「ふつーの親父でなきゃ、赤ん坊をおんぶしてるなんて
こと、ねえよな?」
「ジャファルがあんなことしてる、っての、考えられねえもんな」

ひそひそと言い交わしつつ、それでも噴出しそうになりながら、
胡乱な2人はその家を遠ざかっていくのであった。




FIN〜




管理人コメント

「Die Schloss〜幻桜城」のまいまいげっと様から素敵なお話を戴きました!!

実体験を元にされていると言うリアルな描写。そして、レイとジャファルのかけ合い(?)がもの凄くツボに入り、最初から最後まで笑わされ続けてしまいました〜。もう笑い死ぬかと思いましたよ〜。

赤ちゃんの頃からフテ目なレイ…想像するだけで笑えます。第三弾も期待しております!!

まいまいげっと様。本当に素晴らしい作品をありがとうございました!!

楽しい作品がもりだくさんのまいまいげっと様のサイトはこちらです↓


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