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雪と言えば、決まって思い出す。 一面が銀世界で覆われて。頭上には、冷えた、けれどどこまでも澄んだ蒼が展開されていて。 雪から連想するだろうものは、きっと空から舞い降りる穢れ無き羽の乱舞だろう。それが、“聖夜”というレッテルが貼られたなら、尚更だ。 けれど。自分が起こす情景は、ロマンティックなんて雰囲気とは程遠いもの。 今はもう、描く事しか出来ない、想い出の一場面。 雪の灯火 昨夜、雪が降った。 予想よりも遥かに積雪されたため、ロイは今日一日の行軍を中止した。下手に進軍するよりも、敵が攻めて来るのを迎え撃った方が得策と判断したためだ。幸い、ここは他地域よりも危険とはかけ離れた地点だったため、皆が納得して賛同した。 それに加え、今日が“聖夜が訪れる日”とくれば、反対する者は激減する。ロイの決定は、願ってもいない提案だった。 そんな訳で、お子様方は、冷え込む朝の空気を物ともせず、雪に塗れながら遊び転げ回った。言うまでもなく、代表者はファで、それにチャドやルゥ、キャスなど、実に多くの人材が混じっていた。 それを、レイは少し離れた場所から見守り――もとい、面倒事を回避するべく目立たぬ位置で眺め、隣には、何を考えているか分からない表情のままのソフィーヤが佇んでいた。 遠くで明るい叫び声が響く中。しばらく、二人の間に静寂が漂う。別に年がら年中喋っていなければならないなんて決まりは無いし、二人にとって居心地の悪い沈黙では無いからだ。 しかし、それをソフィーヤの方から破った。本当に、不思議そうに首を傾げて。 「レイは・・・・・・しないのですか?雪・・・・・・遊び」 「・・・・・・俺がすると思うか?ガキじゃあるまいし」 「ロイ様は・・・・・・してますよ?レイより、年上・・・・・・ですが」 「あれは特別だ」 引き合い対象に、天然策士家お気楽大将の名を出され、レイは力一杯否定した。もう、忘却の彼方に押しやる勢いで、今の会話を頭から弾き出す。 ―――普通、“聖夜の日”とかは、アットホームではなく、適当に散らばって甘い時間とやらを過ごすものじゃないのか?いや、俺は甘い時間とやらを過ごす気も過ごされる気も無いが。それとも、それは偏見か?それとも、俺は正常で、この軍が特殊なのか?そもそも、こいつらは・・・・・・。 ・・・・・・などと。レイが平静を装うために、取留めもなく言葉を並び連ねていると。 「では・・・・・・もっと子供の頃は、・・・・・・したのですか?雪遊び・・・・・・」 「――――――――――」 まさか、そんな質問が繰り出されるとは思わなかったらしく、レイは僅かに目を瞠る。なるべく動揺を押し隠し、ゆっくりと彼女を見遣った。 ソフィーヤは相も変わらず、表情変化が乏しい。だが、その瞳はかすかに細められていて、どこか話を期待している光を放っていた。 レイはしばらくその瞳を見つめて――観念した様に、肩を竦めた。視線を、投げやりに遠方に放る。そこには、雪塗れで遊び回る、ファ達の姿が映じられた。 昔。あれは、3つに届いたばかりの頃だったか。 あの時も、こんな風に雪が積もっていた。すっかり葉を落とした樹木が乱立する中で、親子四人で、真っ白の世界へ繰り出した。 「おとうさん、まっしろ―――!」 「む・・・・・・」 面白そうに父の髪を指差して笑うルゥに、むっつりと黙り込んでいる父。それを「あらあら」と、優しく見守る母と、呆れるレイ。 物心ついてから、雪という現象を記憶に留めたのは初めてだった。だからこそ、今までとは異にする銀世界に、ルゥは高揚したのだろう。一番に飛び出し、その後を追って、家族で外に足を踏み出したのだ。 結果、ルゥは何度も白銀の大地にダイブする羽目になり、慌てた父が助け起こそうとした所を、ルゥに雪を投げつけられるという悪戯に遭い、二人は雪塗れになったのだ。父の赤茶色の髪には真っ白な粉が混じり、降り注ぐ陽光を反射して煌いていた。 きっと、ルゥの行動が、世間一般の子供の反応なのだと思う。未知の現象に遭遇すれば、自然、好奇心が刺激される。 だが、レイの雪に対する第一印象は。 ―――何で、こんな役に立たないものが存在するんだ。 あり得ない方向で疑問を持ち、触れてみて、冷た過ぎるその感触に、思わず手を引っ込める。その時点で、レイは溜息を吐き、雪に対する興味を失った。およそ、子供とは思えない老成っぷりだった。 そんな訳だが、ルゥを放っておく事も出来ず、コートとマフラーを身に纏い、こうして外に出向いたわけだが。 「・・・・・・さむい」 ボソッと一言。不平を漏らす。隣にいた母は、くすくすと笑みを零していた。 帰ろうかな。 父と子のじゃれ合いを観察するのにも飽きて、そう結論付けようとした、その時。 ・・・・・・サクッ。 「――――――――――」 戻ろうと踵を返した直後。後頭部に、塊をぶつけられた。冷たい、程よい硬さで、でも柔らかい、何とも不思議な感触の塊。 続け様に、サクッ、サカッと頭上に、後頭部に、背中に、不思議な塊が投げ付けられる。瞬く間に、全身が白銀に染まった。 レイが怒りに震え、振り向くと。 雪を無造作に掴んでいる、父。その塊を、リズミカルに手の平の上で投げて遊んでいる。 無表情で見つめ合う、二人。・・・・・・ふっと。父が、シニカルに微笑んだ。もちろん、挑発である。 そして。 「・・・・・・この、くそおやじ―――――!!!」 レイは見事に挑発に乗ってしまい、ぶんぶんと次から次へと雪を掘っては父に投げ付ける。それを父は身軽に躱しながら――足を滑らし、白い草原に頭から突っ込んだ。 父の無様な姿に、レイは爽快な気分になり――次には、笑っていた。何がそんなに可笑しいのか、自分でもよく分からないまま、笑い続けた。 ルゥも、つられて笑い始めた。父も、声に出さないまでも、笑みを零した。とても、暖かく。幸せそうに。 「皆、見て」 三人の何とも形容し難い笑いの渦には入らずに、何か作業をしていた母が、手を招いた。三人は笑顔のまま、母の方に白い姿のまま、駆け寄る。 「雪うさぎ、作ってみたの」 少し照れくさそうに、母が四つの白い創作を指差した。 滑らかな白銀の胴体に、赤い木の実の瞳が二つ。緑の葉っぱで耳が飾られていて、とても可愛らしい雪うさぎだった。サイズが異なっており――まるで、家族の様に寄り添っている。 「この一番大きいのがお父さんで、次に大きいのがお母さん。そして、この小さい二匹のうさぎが、ルゥとレイ」 「―――――――――」 自分達をなぞらえて、作成された雪うさぎ。それは、とても幸せそうで。自分立ちの心を映す、鏡像。 ルゥが、「かわいい」と歓声を上げ、父も熱心に、うさぎの構図を眺めている。それは、レイも一緒で。 父がいて。母がいて。ルゥがいて。 ――その中に、自分がいて。温かな心が、宿ったよう。 触れてみると。さっきまで冷たい塊でしかなかった雪が、初めて温度を持った優しいものに感じられた。 それは、“聖夜”がもたらした、贈り物。幸せな風景。大切な想い出の、一場面。 雪に対して、レイが感謝を込めた、想い出深い日だった。 「・・・・・・ガ、ガキの頃の話だぞ。今は、別に雪遊びなんてしないからな」 「・・・・・はい・・・・・・」 弁解する様に捲し立てるレイに、ソフィーヤはふわりと微笑む。 本当に分かってるのか、と怒鳴りたくなるのを堪えて、レイが懸命に深呼吸を繰り返していると。 ・・・・・・べしっ。 「――――――――――」 後頭部に、塊をぶつけられた。いつかの様に、冷たい、程よい硬さで、でも柔らかい、何とも不思議な感触の塊を。 レイが、ゆらりと。据わった目つきで後ろを振り返ると。 「よう、青少年。いい年した子供が、何黄昏てるんだ?年寄りになるのは、まだ早いぞ」 真っ赤な髪をした、熱血猪突猛進騎士アレンが、晴れやかな笑みで立っていた。いつかの様に、リズミカルに雪の塊を手の平で投げ受けしながら。ティトの、「ほどほどにね」との忠告を、笑って受け流している。 対するレイは、無言。真っ白な大地に、視線を注いで。 自分は、もう子供じゃない。分別が付く位には、成長している・・・・・・はずだ。 だが。 「売られた喧嘩は、買わなきゃな」 ニヤリと。レイは、足許の雪を掬い上げ。 一気に、アレン目掛けて投げ付けた。だが、彼は余裕で身を翻し、ロイ達の方へと駆けて行く。 「さあ、勝負だ、レイ!ロイ様、俺達も参加します!」 「待ってたよ!皆、勝負!」 「待て、この熱血騎士!」 嬉々とした歓声と怒号が、小さな雪原で交錯する。 いつの間にか、大規模に発展した雪合戦。外野にいる者達も、笑ってそれを観賞して、知らず内に輪の中に突入していく。 その中で。何だかんだ言いながらも、楽しそうに輪に混じっているレイ。 ソフィーヤは、心が温まるのを感じ取りながら、嬉しそうにその光景を見つめていた。 それは、“聖夜”がもたらした、贈り物。幸せな風景。大切な想い出の、一場面。 冷たい、温かな優しさを宿した、雪の灯火。 |
管理人コメント 「outline」のユウキさまがクリスマスに配布されていたSSの掲載許可を戴いてしまいました☆ ほのぼのとした何とも幸せなお話で、ジャファニノ親子好きにはたまりません!! カップリングもレイソフィとジャファニノだなんて美味し過ぎですよ〜。レイの性格が子供の時からひねくれていて可愛いです(?) ジャファニノ一家の雪合戦…幸せな家族のひと時…ユウキさま。本当に素晴らしい作品を有り難うございました ↓ユウキさまのサイトです。FEでは烈火の軍師SSとレイソフィ作品を扱っています。 |