―――おまえのことは俺が守る。


―――・・・この命をかけて。



Promise




雨の中、ニノは自分の身体を抱きしめるようにして震えていた。

木の葉の陰に隠れてはいるが、遮られなかった雨たちが容赦なくニノを叩く。気温は然程寒くはないのだが、打ち付ける雨がニノの体温を奪っていた。



ニノは足首に手を当て、深い溜息をついた。

エリウッドたち一行は食料補充の為、山を越えたところにある村へ進軍中だった。ニノはその後方の部隊に配属されていたのだが、木々を飛び交う色鮮やかな鳥たちに気をとられ、足を踏み外してしまっ
たのだ。鳥に目を奪われていたニノはいつの間にか最後尾にいたため、ニノがいなくなったことにその時点では誰も気付いてはいなかった。



見事に斜面を滑り落ち、その際に大事な魔道書を紛失してしまった。それどころか足も捻挫してしまい、思うように歩けなくなっていた。


「・・・ジャファル・・・。・・みんな・・・。」


濡れた地面に佇み、ニノは呟いた。不安に押しつぶれそうになる弱気な心を、恋人であるジャファルを思い浮かべる事により勇気付けた。

ジャファルは隊列の前の方に配属されていた。剣士系が怪我などで万全ではなく、ジャファルは前方の要として置かれていた。当初ニノと離れるのを嫌がったジャファルだったが、ニノが言い聞かせたの
だ。ニノも戦力として重宝されており、ジャファル共々この軍に必要とされていることがニノには嬉しかった。

(それなのに・・・。)

足手まといにはなりたくない。なんとか皆の元に戻らなければ・・・。

ニノは滑り落ちた斜面を登ろうと、懸命に身体を動かした。熱を帯びた足首が激痛に悲鳴を上げる。それでも何度も繰り返していたのだが、体力が限界に近づいていた。



一際大きな木の下に腰を下ろし、これからのことを考えていると、斜面の反対の茂みからガサガサと音がした。息を殺しその方向に目を向ける。

そこには斧を持った二人の山賊がおり、獲物を見つけたライオンのような目をしてニノを見ていた。


「おい、こんなところに女がいるぜ。」


「なんだ、ガキじゃねぇか。」


「ガキでも女には変わりねぇ。可愛い顔してるじゃねぇか。今は薄汚れてるが磨いたら高く売れるぜ。ま、その前に味見だ、味見。」


「おいおい、ガキだぜ?ま、しかし雨の中、見回った甲斐はあったな。ははははは。」


(この人たち・・・何?・・・怖い・・・。)

下品に笑う男達から離れようと、ニノは痛む足を堪え一歩一歩後退した。恐怖で震える足を懸命に動かし、少しでも男たちから離れようと斜面沿いを逃げる。

それを男たちは面白そうに見ていた。


「逃げろ逃げろ。ひゃっはっは。」


片足を引きずりながら逃げていたニノは、出っ張った岩に足を引っ掛けて転倒してしまった。その拍子に派手に泥水が跳ねる。


「きゃっ!」


すぐさま起き上がろうとするニノの耳に、近づいてくる男たちの足音が聞こえた。恐怖で顔が凍る。

・・・もう逃げ場がない。


足音はもう背後まで来ていた。


「もう、逃げないのか?」


頭を乱暴に握られ、上を向かされる。その強引なやり方に、ニノの恐怖は頂点に達した。


「いやっ!!ジャファル!!ジャファルっ!!助けて!!」


「うるせぇ!!可愛がってやるんだから大人しくしろっ!!」


バシッという音と共に、ニノの身体が浮いた。そのまま岩に激突する。


「う・・・。ジャ・・・ファ・・。」


地面に倒れ伏しながらも、失いそうになる意識を何とか保っていると、下品な笑みを浮かべた男が再び歩み寄ってきた。

無理やり右手を持ち上げられ、引っ張られるようにして立たたされる。その強引さにニノはうめき声を漏らした。

(ジャファル・・・助けて・・・。)



ニノが意識を失いかけたその時、突然ニノの手を握っていた男が崩れ落ちた。

そのまま地面にぶつかりそうになるニノの身体を、何かがそっと抱き留める。

まるで風が通り過ぎたような優しい触れ方に、ニノは羽根が生えたような感覚を覚えた。


「ニノ・・・、大丈夫か。」


労わる様な優しい声がニノのすぐ側で聞こえた。聞き覚えのあるその声に、ニノは目を大きく見開く。

一番会いたかった人・・・。


「ジャファル・・・ジャファル・・・。」


ジャファルの首に手を回し、ニノはすがり付くように泣いた。ジャファルもまたニノの背中に腕を回し、濡れた身体を硬く抱きしめる。その細い体は小刻みに震えていた。恐怖と寒さに震えるニノの身体を尚一層強く抱きしめると、ニノもそれに答えるようにジャファルの胸に強く顔を押し付けた。


次第にニノの震えが和らいでいく。ジャファルはそっと身体を離し、優しくニノの顔を撫でた。その時、口の端から流れる血と赤く腫れ上がっている頬に気付き、ジャファルは顔を顰めた。


「殴られたのか・・・。」


そう呟くと、鋭い目で倒れて息絶えている男達を睨んだ。彼らは自分に何が起きたのか分からないまま息絶えたに違いない。

それ程、一瞬の出来事だった。

男達の息の根を一瞬のうちに止めたその業は・・・

―――瞬殺。

アサシンであるジャファルの最も得意とする業である。


「もっと苦しめてやればよかった・・・。」


ジャファルはニノを自分の上着で包むと、その身体をそっと抱き上げた。


「大丈夫か・・・?・・・みんなお前を心配している・・・。」


「うん。ジャファル・・・ごめんね。・・・迷惑掛けて。」


「・・・気にするな。戻るぞ。」


軽い足取りでジャファルは斜面を登っていく。


「・・・・」


「・・・なんだ?」


俯きながらも何か言いたげなニノに、ジャファルは優しく促した。そのまま足を止めずにニノの目を覗き込む。


「やっぱり私・・・足手まといだね。・・・でも、でもね、ジャファル、私を・・・見捨てないで・・・。」


抱き上げられたままニノはジャファルの肩に顔を埋めた。その頭をジャファルがそっと撫でる。静かに嗚咽が聞こえてきた。

ジャファルは雨を凌げる場所を見つけると、その下に潜り込んだ。ニノを抱きかかえたままそこに腰を下ろした。


「ニノ・・・。俺はもうお前なしでは生きていけない。お前が好きだ。そう言ったはずだ。だからお前を見捨てる事などありえない。」


「・・・ジャファル。」


「もう二度と離れない。お前は俺が守る。」


「ジャファル・・・」


ジャファルはニノの冷え切った身体を愛おしそうに抱きしめた。そして髪に額に頬に唇を落とす。


「ニノ、俺の前からいなくならないでくれ。」


「ジャファル・・・。うん。・・・うん。ゴメンね、ジャファル。」


ニノの頬に張り付いた髪をそっと除ける。

そしてその頬を両手で包み込むと、熱い眼差しでニノの顔を見つめた。揺れるグリーンの瞳にジャファルの顔が映る。


「ニノ・・・この感情はお前が教えてくれたものだ。・・・好きだ・・・ニノ。この気持ちはお前にしか感じない。」


「ジャファル・・・私も・・・私もジャファルが好きだよ。ジャファルに負けないぐらい。」


涙が消え笑顔が戻った少女の唇に、ジャファルはそっと唇をとした。


「・・・お前から離れないという証だ。」


「・・・うん・・・。ジャファル・・・、ありがとう。・・・ありがとう・・・・嬉しい。」


ジャファルは再びニノを抱え上げた。目にも留まらぬ速さで斜面を駆け上がる。



既に雨は止み、雲間から晴れ間が差していた。木々の葉がその光を浴びてキラキラと輝き、幻想的な景色を作り出す。その景色を見ながら、ニノはジャファルの胸の中で深い幸せに浸っていた。







―――ずっと、ずっと一緒にいようね。



―――ああ、ずっと一緒だ。







それは二人だけの・・・・約束。






END

2005/02/01
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キリ番8888を踏んでくださった故子様へ贈らせていただきます。
故子さま、遅くなって申し訳ありません(汗)
ジャファル×ニノって、いいカプですよね!!書いていてどんどん想像が膨らみました!
が!こんな話ですみません。ありがち過ぎますかね・・・。あはは(汗汗)
これからもどうぞよろしくお願いします!



故子より

うわ〜〜〜素敵なお話を有難う御座います。
ジャファルとニノがラブラブですよ〜〜〜。ジャファルを想うニノもニノを労わるジャファルも超絶品です☆
ジャファニノラブラブSSに目の無い管理人二号は小躍りして喜んでいます。
かり娘様。本当に素晴らしいお話を有難う御座いました。
キリ番を踏んで素敵なお話を書いて戴いたばかりか、こちらにて掲載許可も有難う御座います。


そんな素晴らしいSSを書かれるかり娘様のサイト「銀河の森」はこちらです。
聖戦SSがメインですが、烈火も少しあります。どれも見ごたえありますよ。

銀河の森





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